山の想い出 その1


年前、羽田から飛行機に乗り、長崎の友人を訪ねた。本州は、高気圧が支配し、機上から左手に、大きな大きな富士山がまるで模型のように整然と姿を見せた。胸を躍らせ、小さな窓ガラスに張り付いて外を見ていると、やがて南アルプスの上空にさしかかり、白く光った峰々の奥に太平洋を望むことができた。

生時代、肩ひもが重さでギシギシ鳴くほど、ザックに荷を積め、この南アルプスを縦走しようとした。荒川岳は予想以上に大きくて、未熟な我々は行く手をはばまれ、下山を余儀なくされた。

の山行中、パーティーの一人が怪我をし、ヘリコプターで搬送された。私たちが8日間かけて歩こうとした南アだったが、ヘリで運ばれた者は15分で静岡に着いたと言う。

れを聞き、歩くことが何とも無意味で馬鹿げた行為のように思えたが、私には山歩きをやめる気にはなれず、かえって、前以上に、山に足を運ぶようになった。

れから何度も、なぜ山が好きなのか、自分で考えることもあったし、人からも良く尋ねられた。その度に、「なぜだか分からないけど、とにかく好きなのよ」と、まるでつまらない男性に熱を上げているのを諌められたように、口篭もって言うしかできないのだった。