山の想い出 その2 〜月山〜


校時代の友人が、山形で結婚式を挙げることになり、そのめでたい席に私も顔を出した。彼女と私は、同じ水泳部で高校生活を過ごし、夏は表も裏も分からぬほどに、ともに日焼けした仲だったが、当日、純白のウェディングドレスを身に着けた彼女は、高校時代とは似ても似つかぬほど、色白になっていて、夏にせっせと山に行っていた私と並ぶと、まるでオセロゲームの駒のようだった。

女は、自分の結婚式のために、山形まで遠路はるばる悪いねぇと、申し訳ながっていたが、私はちゃっかり、披露宴が行われるホテルに山の道具を宅配便で送っていた。

婚式の翌日、新郎新婦の笑顔に見送られ、私は月山へと向かった。月山の八合目の駐車場に真夜中に到着し、目覚ましをかけることもせず、眠った。目を覚ました時、まず視界に飛び込んできたのは、ピンクに染まった空気だった。ただただ、車もレストハウスも湿原も、木道も、淡いピンクに染まり、その中を私は、無言で山頂を目指して歩いた。

日ということもあり、山頂までは誰にも会わなかった。やがて、ピンク色だった風景は静かに蒼色へと変わり、振り返ると、遠くに鳥海山が右肩を雲海から出し、左肩を日本海へと沈めているのが見えた。

       

頂にあがると、今度は太陽の日を受け、黄金色に輝く湿原が待っていた。言葉を忘れ、その光景を見つめるばかりだった。音が全く似つかわしくない風景だった。鳥海山のほかは、名が分かる山はなく、エアリアマップを片手に夢中になって周りの景色を見つめていると、時が経つのはあっという間だった。

 
       


頂をあとにし、八合目駐車場に戻ってくると、そこは観光に訪れる車がたくさん並んでいて、眼下に広がる日本海を背景に、写真を撮っている人で賑わっていた。急に現実に戻されて戸惑ったが、お互いを写真に撮り合っていた老夫婦に「お撮りしましょうか?」と声をかけ、二人に並んでもらう。ファインダーをのぞくと、昨日の新郎新婦に負けじと素晴らしい笑顔がそこにあり、独り者の私は、非常にうらやましくなり「うーむ」と、うなってしまったのだった。