● 添乗日記13 
     
            自由に生きなさい
     

           2000年6月 老人会親睦旅行 (In 東北)      

    日(2001年8月15日)は終戦記念日。ひとつふと思い出した添乗があるので
     綴ります。


  老人会の旅行で女性の添乗員が足りないとのことで、別の支店から助っ人
    依頼がきました。いつも小学生と修学旅行に行ってばかりだったので、バス8台
    分のおじいちゃん・おばあちゃんたちと旅行をするのは何だか新鮮でした。


  年配の方たちの旅行なので、今回はトイレ付きのバスを用意しました。
    「どんなんかいな?」と皆さん興味津々で、バスに乗り込むとまずトイレを確認
    されています(^^)。トイレだけでなくカーナビもついてるこのバス。茶目っ気のある
    ドライバーさんが、「東北に行くんだから東北弁バージョンで」とカーナビの設定
    を変えたので、「右さ行ってケ〜」とカーナビのとぼけた声が運転席から聞こえ
    てくるので笑いをこらえるのが大変。そんなほのぼのとした雰囲気でバスは
    北へ北へと向かいます。


  松島や猊鼻渓舟下りなど、東北定番の観光地を見てまわる3日間の旅行中、
    お客様には、アイスやらお菓子やらを買ってもらい(笑)、孫娘のようにかわい
    がっていただき嬉しくなり、なんだか自分の祖父母を思い出してしまいます。

  そして夜は演芸大会の始まり始まり!各地区の老人クラブごとに歌を歌っ
    たり踊りを披露したりで、大盛上がり。
その舞台を見ながらお話していた
    お客様が、突然「私があなたの年齢の頃は戦争に行ってたんだよね」と
    仰っいました。隣に座っていた方も「私もそうだよ」と続きます。

  「今の若者達は贅沢だよなあ。“自由”を活かしきれていない。私達が若い
    頃は、生き方を選ぶことはできなかった。」こんな言葉には胸がいっぱいに
    なってしまいます。

  そんな私にお二人は「これから自分以外の理由で、なかなか自由になら
    ないことが増えていくよ。せめて若い今くらい、自由に生きなさいね。」
    「大人が不景気で暗い顔をしてるから、若者達も生きる喜びを見つけられ
    ないんだよね。あなたは好きなことをして輝きなさいよ。」
    そして、言葉を見つけられず黙ってしまった私の手を何度も何度も握り
    頭をなでてくれました。

  3日間の旅行もあっというまに終わり、出発地にバスが戻ってきました。
    バスを降りると、しわくちゃのお手手と何度も何度も握手をしました。バス
    ガイドさんが「2泊くらいの旅行が、お客さんに情がわく頃にお別れだから一
    番さみしいよね」とつぶやきます。

  ちょうど退職について考え始めていた頃の添乗でした。この仕事を辞めたら
    お客様とのこんな出会いもなくなってしまうんだ、そんな悲しさはあったけれ
    ど、「自由に生きなさい」、この言葉が私の背中をそっと押してくれた気がし
    ます。


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